( 06:君に会いに来ただけだよ )

私としては失敗だったと白く歪む視界に眉を寄せながら視点を合わせようと躍起になってみるが無駄な事と知り止めた。何が起きたのかあまり覚えていないは見える天井の高さとつんとした薬品の匂いで此処が何処か分かった。医務室に寝ているのは何でだろうと眼が廻りそうになるそれを考えながらそういえば、と思い出す。罰則を食らう覚悟で椅子に座り生徒が居なくなるのを待っていたのだが徐々に自身の体調が優れなくなっていくのを感じ、べスに悟られないようあらぬ方向へと眼を向けて気分の悪さを誤魔化していた。

「失敗だったなあ…」

蝙蝠男に気を取られていた所為で食事を取るのを忘れる程に付きまとっていた。それが主な原因だった。元々身体の造りが丈夫ではないはこうして倒れてしまったという訳で、失敗だったというのは何故あのタイミングで身体が急激に衰えたのかと云う事だった。本人の推測では地下室という健康体であっても数十分居るだけでも具合が悪くなりそうな淀んだ空気の上に光さえも差し込まれないその部屋に具合が優れなかった者が同じ時間居ればどうなるか容易に想像がつく、つまり地下室に居た事によって進行が早まったというわけだ。としては罰則が遅くなっただけ幸いだったのだがスネイプにしてみたら腸が煮えくり返るような出来事だっただろうと考えてみるだけで背筋に氷で撫でられているような感覚がし身震いさせた。

「あ、調子はどう?」
「まあまあ…」

周りを囲んでいたカーテンが引かれ眼をやれば、綺麗にうねった髪の毛を垂らして笑っている友人がそこにはいた。大量のお菓子が腕いっぱいに乗り込んでいて、昨日今日で調子が戻らないは胸焼けがする気持ちだった。それも机がもう一つ欲しいと思ってしまうくらいのそれにげんなりしている彼女を他所に備え付けの椅子に座りながら更に追い討ちをかける。その一言がなければきっと後数時間で目の前のお菓子を口に運ぶ事が出来たかもしれない。

「急に倒れるんだもの、吃驚したわよ。スネイプ先生のお陰よ、」

スネイプ先生のお陰よ、の次に続いた抱き上げて医務室まで連れて行ってくれたんだからという友人の言葉にもう一度時をやり直せればどんなに楽かと後頭部を枕に打ち付けた。この友人の事だからきっと羨ましがっているのだろうと彼女の方を見ればその瞳はきらりと光っていた。

「本当スネイプ先生と縁があるのね、羨ましいわ」
「是非ともその運を分けてあげる処か全て上げたいくらい」

輝いている友人を放っては思い出せる限りの記憶の貯蔵庫から観察した限りのスネイプについてを考え直していた。観察期間は五日間程度だったがまだ何も掴めてはいない。中々尻尾を出さない教師に苛々しながらも今度こそはと倒れて今に至っている事をもう記憶の隅に置き去りにしてきていた。嬉々としてべスは鞄から羊皮紙を取り出したかと思えば魔法薬学の宿題と云いながら二巻き半ですってと笑う。その有り得ない長さに唇が開いているにたった二巻き半とでも云うかのような反応をしている友人にこれはあの陰険教師の仕返しなのだと思いつく。

「何でいいのか分からない…」
何処まで陰湿なんだと思わず出た本音は友人には届いて居らず安堵に胸を撫で下ろす。顔を綻ばせている友人とは真逆には何も受け付けない胃がスネイプに対してムカムカし始めた頃、またカーテンがゆらりと揺れた。白いカーテンとは全く馴染み得ない色のローブと服と髪、はその姿を、色を確認した途端眠っていれば善かったと後悔した。

「スネイプ先生、!」
「…(うげ…)」
「思っていたより元気そうで何より」

姿を現したスネイプはとベスを見やる。ベスは驚きと嬉しさが交じり合った表情をスネイプに向けているのに対し、はそんなベスとは対照的だ。あからさまではないのはきっと目の前にスネイプが居るという事と昨日の事とが重なってしまっているからだ。少しでも平然を装うと教師に向ける顔つきを作ろうにも変に無理をするものだから顔の筋肉と云う処は引き攣った。

「態々、ありがとうございます」
「実に不覚乍ら、変な噂が立っても困るのでな」

厭な奴だ、と心の中でごちりながらは布団を強い力で握り締め、湧き上がる腹立たしさと戦っていた。何で自分はこんなにも怒らなくてはいけないんだろうと疑問に思いながらも一応心配して来てくれたと思われる教師に対しては礼儀を尽くした。教師は一言二言云い残し、白い世界から一際目立っていた黒はあっという間に消え去り胸を撫で下ろしたとは別に丸椅子に座って名前を呼ぶ以外黙っていた友人に向直れば何かを考えているかのような、まるであの教師のように眉間に皺を作っていたものだからそれを注意すれば慌てて笑う。教授に会えて嬉しくなかったの、と茶化そうと思ったりもしたがまた名前を出せば出てくるのではないかと危惧した為その案はあっさりの中で取り下げられた。育ちすぎた蝙蝠男は最後の二言目に罰則は来週行うから必ず来るようにと念を押して消えていった、それを思い出し苛立ちは一層強くなる。